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(なごみ語り)
大野君の席は数人が集まっていた。明らかに異常事態を物語っていており、その光景に溜息が零れる。
「なごみさん、見てくださいっ、さっきからこんなんでうんともすんとも言わないんです。ほら……」
大野君がマウスを操作するも、カーソルすら見当たらない。しかもパソコン画面が真っ青だった。
これは壊れたかもな、と隣で犬のように待てをしている大野君を見て思った。運が良ければ初期化で戻るかもしれない。
「大野君、バックデータは取ってある?」
「えっ、いちおう……もしかして何か良くないことが起ってます?」
「触ってみないと分かんないけど、僕の手に負えるかどうか……」
僕は早速大野君のデスクに座って作業に入った。
今日は何時に帰れるのだろうかと、途方に暮れた。自分の仕事も途中やりなのに、大野君のパソコンを初期化して、使えるまでの設定をしないといけない。
「なごみさん、すみません。忙しいのにお願いして。俺、頼れる人がなごみさんしか居なくて。」
僕の隣で大野君が申し訳なさそうに言う。
はいはい、わかりましたよ。色んなものを諦めて、大野君に微笑んだ。運が悪いのは昔からだ。
「いいから、仕事していて。僕も集中したいんだ。気が散るから見なくていいよ。終わったら報告する。」
「はっはい。お願いします。」
大野君は不在だった隣のパソコンを借りて企画書を作成し始めた。それを確認してから僕も作業に没頭する。
気付いたら、オフィスには僕と大野君の二人きりだった。
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