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(なごみ語り)
「なごみさん……なごみさん?」
大野君の声で我に返った。集中しすぎていた様で、周りは僕と大野君以外誰もいなかった。閑散とした室内で、エアコンの風音が響いていた。
「みんな帰っちゃいましたね。なごみさんの集中力がすごくて、話しかけるのに躊躇いましたよ。そろそろ休憩しませんか?」
「あ、うん。大野君のパソコンは復活しそう。あともう少しでいつも通り使えるようになるかな。」
「うわ、うわ、ありがとうございます。」
作業は終わりそうだったが、大野君も休憩したがっているので、お言葉に甘えることにした。僕も目が疲れていた。
「コーヒーでよかったですか?」
「うん、ありがと。」
大野君と誰もいない休憩室のベンチに座った。何だか変な感じがする。彼には色々面倒を見させられてきたが、2人っきりで話すのは初めてだった。
「本当にありがとうございました。なごみさんが居てくれたお陰で俺は救われました。何かお礼させてください。」
「大袈裟だよ。救われたなんて。」
頭を下げる大野君に、はははと僕は笑い、貰ったコーヒーを口にした。甘さが疲れた体に丁度よく染みる。
「なごみさんは、何が食べたいですか?」
休憩室に大野君の明るい声が響いた。すると僕の頭の中に見覚えのある光景が広がり、飲み込まれそうになる。息が苦しくなるあの感覚に涙が出そうになった。
『なごみは何が食べたい?』
ふいに優しい諒の顔が浮かぶ。
2人で台所に立ったのを思い出した。
諒は料理が上手で何でも美味しかった。
諒…………会いたいな。今どこで何をしてるのかな。
胸が苦しくなり、じわっと涙が滲む。
こんなことで泣きそうになるなんて、情けない。
隣に大野君が居るから、泣いちゃだめだ。みっともない。気合いを入れて、涙を堪える。
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