会社の後輩

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(なごみ語り) 「なごみさん?」 「…………うーんとね、焼き鳥。」 焼き鳥かぁ、それだったら……大野君の話は僕の涙を疑うことなく続いていった。 諒と別れてから元々ゆるい涙腺がますますゆるくなり、ちょっとのことで泣きそうになっていた。別れた当初はパブロフの犬みたいに、諒を思い出すと自然に涙が出た。2ヶ月経った今は少しマシになったものの、まだ油断はできない。 すぐ泣いてしまうのは寝不足で弱っているからだろうか、身体も物凄く疲れていた。 「聞いてますか?俺の話。」 「ひゃぁっ……」 ぼんやりしていると、大野君の顔が真ん前にあった。びっくりして思わず跳ねる。 「なごみさん、ずっとさっきから上の空ですよ。疲れてますか?」 近い距離で大野君の顔を見つめた。丸くて綺麗な瞳と短の前髪が可愛らしい。普通の健康的な男子だ。彼を見ていると開ける世界が羨ましいとも思う。いつまでもうじうじしている僕とは大違いだ。 「うーん。疲れてるのかな………」 真っ直ぐな視線に耐えかねて思わず視線を逸らす。大野君はそんな僕を肩をポン、と叩いた。 「約束ですよ。来週の金曜日、焼き鳥へ行きますからね。残業も他の予定も禁止ですから、分かりました?」 「え、あ、あぁ。わ、分かった。」 いつの間にか来週行くことになっていたらしく、大野君に何度もしつこく念押しされた。人の話を聞いていないもいいとこだと、情けなくて自虐的に笑った。 そして、大野君が僕を覗き込んだかと思ったら、何も言わずに右手の親指で僕の目元をきゅっと拭ったのだ。えっ?涙出てた?と一瞬頭が真っ白になる。普段見せていない弱い自分を、会社で出してしまったことにパニックになった。 黙って拭われたことが本当に恥ずかしかった。 「さぁ、作業に戻りましょう。」 大野君が何も言わず、先に歩き出したので、慌てて僕もその後に続く。恥ずかしさで赤くなった頬はバレなかっただろうか。 涙の理由はその後も一切聞かれなかった。 程なくして作業は終わる。 僕は大野君と携帯番号とメールアドレスを交換して、なんとか日付が変わる前に退社できたのだった。
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