コンビニ店員

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コンビニ店員

(コンビニ店員 中村 誠語り) その人は、『なごみさん』というらしい。 とても暑い8月のことだった。 その人は、いつも背の高い男の人と来る。 来店時間は夜中の1時過ぎぐらいだ。 なごみ、と男の人に呼ばれているのを聞いて名前を覚えた。 なごみさん……。 俺は心の中でこっそり呼んでみる。 色が白くて男なのにかわいらしい人だ。 夜中だから他にお客様がいることは少なく、それを知っているのか、いつも2人は手をつないでいた。 ああ、付き合っているのか。 男同士とか、そういうのはあまり考えなかった。なごみさんが幸せそうで2人はお似合いだったから、素直に羨ましかった。 2人は手を絡ませて、店内を並んで歩く。 時折、なごみさんが持っている買い物カゴがちらちら奥で見えた。 仲良く笑いながら買うものを決めてレジへやってくる。 会計は決まってなごみさんだった。 俺は恥ずかしくてなごみさんを真っ直ぐ見れなかった。 なごみさんの着ている白いTシャツが冷房の風でゆらゆら揺れ、風に乗ってふわりといい匂いがした。息の吸い方を忘れたみたいに、胸が少し苦しくなる。 「なごみ、買い忘れ。」 なごみさんの彼氏がポンっとカゴに商品を足した。 それを見てギョッとする。 コンドーム…………。 俺は、平静を装って袋に入れる。 そうだよね。恋人同士だものセックスするよね。 ふと、なごみさんはそういう時はどんな声を出して乱れるのか想像してみたくなる。仕事の邪魔をする煩悩を必死でかき消し、レジに集中した。 「2930円です。」 なごみさんの綺麗な指からお札が舞い降りた。 「70円のお返しです。ありがとうございました。」 「ありがとう。」 たったそれだけのやり取り。 なごみさんは、袋を彼氏に持ってもらって手をつないで店を後にした。 麻のパンツとサンダルが夏らしくて今でも鮮明に覚えている。 秋、ひさびさに来店したなごみさんは、一人だった。 そう、なごみさんは一人で来るようになった。 隣にあの男の人は……いなかった。
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