プロローグ

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プロローグ

どうして私だけ… 私の元にだけ来てくれないの… 奈美はリビングのテーブルに突っ伏して下唇を噛んだ。 テーブルの上には線が一本しか出ていない妊娠検査薬。 【陰性】 今回もダメだった。 今回も赤ちゃんは奈美の元へは来てくれなかったのだ。 この真っ白な検査薬を何度見てきたことだろう。 毎回今回こそはと期待して、その度に落ち込んでいる。 こんなことをいつまで続けていかなければならないのだろうか。 周りのママ友からは2人目や3人目の妊娠報告が相次いでいる。 奈美は自分だけ取り残された気分に陥っていた。 「ママ…」 眠そうな目を擦りながら、美加が子供部屋から出てきた。 奈美は慌てて検査薬をチラシの下に滑り込ませると、立ち上がって美加に駆け寄った。 「ごめんね、電気の光が明るかった? 起こしてごめんね。」 そう言うと、美加を再び子供部屋へと促し、自分も後に続いた。 「いい子ね…」 美加をベットに横たえて、寝転んだ美加の髪をそっと撫でながら愛おしそうにその表情を見つめる。 美加は撫でられ、気持ちよさそうに目を瞑り、そしてスヤスヤと眠りの世界へ誘われていった。 寝入った美加のその愛らしい寝顔を見つめていると、スッと奈美の頬を涙が一滴伝っていった。 美加が居てくれる。 1人の天使を授かれた、それだけでも幸せなこと。 そんなことは奈美自身も分かっていた。 そんななかで、ふたりめを望むのは欲張りなことなのだろうか。 考えれば考えるほど涙はとめどなく溢れでてくる。 どうしてうちには来てくれないの… どうして… どうして… 理由を探してみても勿論、答えなんて出るはずもなかった。
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