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塔の中ではすべてのものが常にディヴァーギルの監督下にあり、ほとんどの場合にはナディーラが傍にひかえているものの、ルカーにもいわゆるひとりの時間というものは存在した。 その日もひとり、私室で寝台(ベッド)に腰を下ろし、ネファヴィリーの記録媒体を見ていた。 ネファヴィリーの光の文字は人類のものよりも何倍もの速さで情報を伝達するが、それでも未だ、元人間のルカーがネファヴィリーの大いなる智恵のすべてを習得するには至っていなかった。そのため、空いた時間にはそれなりに勉強もしている。 ふと、ナディーラが部屋に入る気配がして、顔を上げた。 黒い獣のすがたの彼は足音もほとんどさせなかったが、通信能力(テレパシー)の届く範囲であれば存在を認識するのは容易だった。 「終わったのか?」 「はい。無事に」 「それはなにより。ご苦労さま」 「いいえ。どういたしまして」 「おいで」 「はい」 ナディーラは軽やかに寝台(ベッド)に乗り上げ、横になったあるじに寄り添った。 「塔の保守点検・整備(メンテナンス)の間はおれだけ暇だ。すこし仲間はずれの気分になるな」     
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