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眠るベッドの空いているスペースに腰を下ろすと、軋む音がした。
それでもまだ起きる気配がない。
指先が滑るほどの柔らかい黒髪に触れる。
ゆっくりと確かめるように優しく頭を撫でていた。
ーーー
触れられた感触に小さな声を出して、少しだけ目が覚めた。
壊れ物を扱うほどに優しく丁寧に撫でられて気持ちがいい。
岸くん?先生?分からない…確認しようにも目蓋がくっついて動かない。
嫌な気持ちにはならないから、そのままでいいかな。
ボーッとした意識の中、撫でる手がなくなった事で再び眠る体勢になった。
…何だか疲れた、眠い。
少し気になるが、まぁ…誰でもいいかな。
そのまま深い眠りの中に沈んでいった。
ーーー
さすがに起きたのかと思ったが、まだ起きる気配はなかった。
ずっと見つめていた人物は口元を上げて笑っていた。
起きてきても別に構わない、むしろ早く起きないのかなとすら思う。
でも、あまり長くここにいるのは良くない。
誰かが保健室に入ってきたら、面倒な事になる。
二人の空間に入れるのも嫌だ。
確かめるようにゆっくりと頬に触れて、指を下に滑らせる。
襟に隠れた首に触れて、その生きている体温を感じていた。
ずっと待っていた、この時を…ずっと…
風が窓の隙間から入ってきて、二人の髪を優しく揺らした。
この場にいるのは二人だけ、まさ世間から遮断された世界のようだ。
「…ももちゃん、みっけ」
まるでそれは、かくれんぼの鬼が見つけたようなお遊びの言葉のようだった。
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