第1話

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眠るベッドの空いているスペースに腰を下ろすと、軋む音がした。 それでもまだ起きる気配がない。 指先が滑るほどの柔らかい黒髪に触れる。 ゆっくりと確かめるように優しく頭を撫でていた。 ーーー 触れられた感触に小さな声を出して、少しだけ目が覚めた。 壊れ物を扱うほどに優しく丁寧に撫でられて気持ちがいい。 岸くん?先生?分からない…確認しようにも目蓋がくっついて動かない。 嫌な気持ちにはならないから、そのままでいいかな。 ボーッとした意識の中、撫でる手がなくなった事で再び眠る体勢になった。 …何だか疲れた、眠い。 少し気になるが、まぁ…誰でもいいかな。 そのまま深い眠りの中に沈んでいった。 ーーー さすがに起きたのかと思ったが、まだ起きる気配はなかった。 ずっと見つめていた人物は口元を上げて笑っていた。 起きてきても別に構わない、むしろ早く起きないのかなとすら思う。 でも、あまり長くここにいるのは良くない。 誰かが保健室に入ってきたら、面倒な事になる。 二人の空間に入れるのも嫌だ。 確かめるようにゆっくりと頬に触れて、指を下に滑らせる。 襟に隠れた首に触れて、その生きている体温を感じていた。 ずっと待っていた、この時を…ずっと… 風が窓の隙間から入ってきて、二人の髪を優しく揺らした。 この場にいるのは二人だけ、まさ世間から遮断された世界のようだ。 「…ももちゃん、みっけ」 まるでそれは、かくれんぼの鬼が見つけたようなお遊びの言葉のようだった。
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