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席が近かったら凪沙の視線に堪えきれず不登校になるところだった。
「ねぇ、ももちゃん」
「………」
さっきはつい反応しちゃったけど、ももちゃんじゃないから無視しようとしていると凪沙は勝手に話し出した。
凪沙も返事なんて期待してないのだろう。
それで本人が満足なら、俺がなにか言う事もない。
俺が居てもいなくても、凪沙には関係ないだろう。
後ろから付いて来る凪沙の表情は分からないが背中からピリピリする視線を送られて顔を青くする。
今、どんな顔をして俺の方を見ているんだろう。
何かを言われるのか、怖かった。
普通の人なら凪沙の低く耳障りがいい美しい声にうっとりするんだろうが、俺にとっては悪魔の囁きに聞こえる。
凪沙の言葉一つ一つがずっしりと重い感じがして悪寒が走った。
酷い暴言を吐いているわけでも、悪口を言っているわけでもないのに凪沙の言葉は俺の精神を可笑しくさせる。
「隣のクラスに桃宮って奴がいるって昨日言ってたでしょ」
凪沙の言葉は意外にも他の人についてだった。
俺と同じ「桃宮」だけど、俺じゃないから別人の話だ。
そういえばその話を風太が言ってたな。
あの時は誰だか知らなかったけど、生徒指導室でのアレを聞いてしまい凪沙に見えないように下を向き、思い出し顔を赤くする。
凪沙に反応しないようにしていたのに、自分から反応してしまった。
あんな場面に遭遇するのは初めてで、男同士とはいえ俺には刺激が強すぎる。
桃宮の顔は知らないが、あまりその話題はしたくない。
忘れようと思ってたんだ、相手も忘れてほしいだろうし…
もう二度とあの場面を聞く事もないだろう。
凪沙はその事を知らず俺をジッと見ていた。
視線だけ感じて、気まずくて目線を逸らした。
その瞳が仄暗く俺を写していた事に下を向いていた俺は気付いていなかった。
何でもないように口を開いた。
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