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何を思って、凪沙は安心だと言っているんだろうか。
安心出来ない…ももちゃん探しなんて諦めてくれた方が安心できる。
こんな平凡顔、何処でもいるのに何故こうも自信満々に言えるのだろうか。
それに隣の桃宮くんには会った事がないんじゃないのか?
俺も会った事はないけど、まだ確信するのは早い。
どちらも凪沙の求めているももちゃんではないと気付くにはもう一人のももちゃんに会う必要がある。
でも、俺の事をももちゃんだと思っている凪沙が隣のクラスの桃宮くんは違うとなったら俺が本物だと思わないか?
隣の桃宮くんがももちゃんでも同じだ、どちらかがももちゃんになる。
それでは意味がない、凪沙を諦めさせる事が出来ない。
凪沙から俺はどう見えてるのか聞いてみたい気がするが、聞くのが怖くもある。
…俺は凪沙から誤魔化し続けるのだろうか。
ももちゃんを見つけるまで、凪沙は諦めない…そんな気がする。
何も答えない俺に凪沙は心の底から冷えるような冷たい声を出して呟いた。
その声は俺の知らない凪沙だった。
「…ももちゃんと同じ苗字とか、本当にムカつく」
「……?」
独り言の小さな声だったからよく聞こえなかったが、聞き返したくなくて口を閉ざす。
そろそろ学園が見えてきた。
俺と凪沙は同じ距離を保ちながら、歩いていた。
たまに凪沙がこっちを見てくるから、目を逸らすので精一杯だった。
俺と凪沙は校舎に入ってからも一言も喋らなかった。
いろんな教室からHRの声が聞こえてきても、焦る気持ちがなかった。
隣にいる凪沙がマイペースだからなのかもしれない。
凪沙と俺は違う世界に生きていると思っている。
本来なら隠の俺は陽の凪沙に近付く事も許されない筈だ。
俺と凪沙は趣味も友人も何もかもが異なっていた。
お互い違うグループにいるのに、ずっと感じる凪沙の視線が全身を縛り付けるように俺を苦しめていく。
凪沙から解放される日が来るのだろうか。
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