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「血の雨が降らねばよいが。そう、西地区の者も不安そうにしていると聞く。犯人が捕まっていない以上、ないとは言えぬ」
心臓が不安に悲鳴を上げている。ファウストはそれをしっかりと自覚している。
ロトの影にランバートがいる。
そして五年前。スラムで起こっていた暴行死。符号は見事に一致して見える。
ランバートはロトであると、ジンも無言で認めた。ならばこの事件の背後にも、奴はいるんじゃないのか?
「ファウスト、何を知っている?」
じろりと睨むような薄い水色の瞳に、ファウストは僅かにたじろいだ。だが、直ぐに表情を変える。首を振り、知らぬを通す。
「調書に書かれた事以上の事は分からない。だが、懸念はしている。この事件と今の事件がリンクするなら、弟が巻き込まれる危険はある。そうなったとき、俺は冷静でいられるか分からないからな」
「お前の弟は無防備で楽観的じゃからの。性善説を地でゆくような者では、お前も苦労が多かろう」
「少しは懲りてくれるといいんだが、期待が薄い。事態が早く終わりを迎えてくれる事を祈るが、正直胃が痛いんだ」
何よりブルーノが早々に内務によって聴取され、捕まれば血の雨など降らない。罪人に正しい罰が下れば、それで終われる話だ。
何より過去の事件があいつと関わっていたとしても、もう誰もそれを証明できない。
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