姿無き殺人鬼(ファウスト)

8/9
前へ
/136ページ
次へ
 ファウストは知っている。  今は更に力をつけたが、入団直後でもランバートの剣は鋭く正確だった。動きは柔軟で、複数相手でも十分に立ち回れた。  ファウストは知っている。  ランバートが持つ暗い殺気。それは情のある人物が被害に遭うと発せられる。ロッカーナで感じた底冷えのするような悪寒は、歴戦の騎士でも尻込みする不気味さと暗さがあった。  ファウストは知っている。  ロトという人物はランバートと密接であり、ランバートを助けるような人物が複数いて、たとえ犯罪でもそれに手を貸すだろうこと。  ランバート一人にこれだけの事件が起こせたとは考えられない。実行したのはあいつでも、それだけの死体を運び出す事は容易ではない。  ジン達が手を貸した可能性は高い。転がった死体を運び出し、現場を水浸しにする事で証拠を消した。人数がいなければ迅速にはできない。  スラムの暴行死。それを解決できなかった国の責任は重い。耐えかねてやったのかもしれない。 「…だめだ」  考えれば考えるほど、これが正しいと思えてくる。全ては推測だ、何の証拠もない。所詮は動機があっただけ。実行しうる力はあっても、実行したと断定する事はできない。     
/136ページ

最初のコメントを投稿しよう!

606人が本棚に入れています
本棚に追加