最後の夏

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―プシュー… 波打つ人混み。 この人の多さには、多分一生慣れることはできない。 イヤホンで隠したはずのノイズは、視界から聞こえてくるようだ。 キツい香水と独特な皮脂の臭い、汗の臭いとほのかなデオドラントスプレーの柑橘系の香り。 僕の地元ではこんなことは無かった。 二年と少し前、僕が高校一年になると同時に、父の転勤で東京に来た。 東京といっても、少し外れたところだけれど、流石は都会、毎朝超がつく満員電車だ。 ついてきた母は専業主婦。 パートをすると言い続けているが、相変わらず専業に主婦をしている。 妹の雪江は中学一年生になった。 こっちに来た当初は小学生だ。 はじめての制服に浮かれているが、 前に母が僕に 「着ているというより着られているね」と笑った。 それは雪江に言うなと咎めた。 もう見慣れた電車に、 敷き詰められるように乗り、追い出されるように降りる。 着いたのは、学校の最寄り駅。 電車に乗っていた人達が弾けた。 高校三年生。 「進路」という二文字が毎日を憂鬱にする。 そんな一日が、また始まる。
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