第一部 アスフィラル劇団 序章 フルージアの初舞台

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「まさか…… この我 が …… 人間如きに負けるとは……ッ!」  やがて闘いの決着はつき、ゼウデラ役は倒れたきり、ぴくりとも動かなくなる。しかしフィラ・フィア側も、残っているのはフィラ・フィアただ一人のみ。他は皆、ゼウデラにやられてしまったのだ。  そこまでかの神は強く、決して犠牲なしでは倒せない。  ゆえに封じる必要があったが、その結果がこれだ。  フルージア=フィラ・フィアは、涙を流しながらつぶやいた。 「封じられた……わたし、封じられたよ?」  動かぬゼウデラ役の身体には、次々と光の帯が巻きついて行く。無論、すべて、魔導士の作りだした幻影だ。  フルージア=フィラ・フィアはうずくまり、自らの体を抱いた。 「でも私、勝ったのに……勝ったのに、こんなに悲しいのは何故……? エルステッド、シルーク、ヴィンセント……。みんな、みんな、死んじゃった! わたしだけ残ってもさあ、意味ないじゃないの!」  この場面は、独白だ。生き残った者のモノローグだ。 「悲しいよ。帰ってきてよ、ねえ……。返してよ」  そうして照明が落とされて、場面は次へと移行する。  フルージアの演技は真に迫っていて、誰もが思わず涙をこぼした。  そして――   ♪ 「わたくしフィラ・フィアは、只今すべての任務を果たしましたことをここに報告いたします」  古王国カルジアの王宮で。そう報告したフルージア=フィラ・フィアは、王のもとを去る。  目指すは丘。死ぬ前の「七雄」たちとともに、わずかな時を過ごし、友誼を結んだ思い出の丘。何よりも輝かしい記憶の眠る、約束の地。  そこには墓がある。散っていった「七雄」たちの墓が。  それらの墓は円を描くように並んでいて、その中心には大樹の苗木があった。  その苗木の傍らに立ち、彼女は祈るような仕草をする。 「エルステッド、シルーク、ヴィンセント、ユーリオ、ユレイオ、レ・ラウィ! わたし、果たせたよ? みんなみんな死んじゃったけど! あなたたちの願った世界が、ようやくこれから訪れるのだわ! 死んじゃっても、その願いはわたしが引き継いだからさ!」  その顔は涙に濡れていた。 「――安心して、眠ってね……!」
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