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「いやー、すごかったよ! きみ、劇で役を演じるのは初めてなんだろ? なのにあれほどの出来とはねえ。驚いたよ」
すべて終わり客が帰った後の舞台裏で。フルージアは皆に褒めちぎられた。ちなみに今、フルージアはフィラ・フィアの衣装を脱ぎ、薄汚れた普段着に戻っている。
「わたしだってあそこまで出来るとは思ってませんでした。周りの雰囲気でいつの間にか、フィラ・フィアになったような気がしただけですよ。『あれほどの出来』なんて過ぎた言葉です」
そう答えると、団長ウォルシュはううんと首を振った。
「初めてで役にあれほどのめりこめる人はそうそういないんだよ。君は素晴らしい才能だ! よかったら我が団に、是非来てくれないかい?」
友好的に差し出された手を見て、フルージアははっとなる。
フルージアには身寄りがない。住むところがない。お金を稼ぐ手段がない。そんな事情を向こうは無論知らないだろうけれど、劇団に入れば最低限、お金の問題は解決される。
それにフルージアは、短い初舞台で強く思ったのだ。自分は劇が好きだと。好きなことが仕事になれば、どんなにうれしいだろう?
フルージアは決めた。
「お誘いをくださるのでしたら……。あなたたちの劇団に入りたいと思います。わたし、演じるのが好きなんだって、今回の舞台でしっかりとわかりました! 入れてください!」
フルージアが差し出された手を握ると、劇団の皆が湧いた。
「やったあ! 未来の新星獲得だぜ!」
「これからよろしくねっ、フルージアちゃん!」
「さすが団長! やりましたねえ!」
みんながみんな、彼女を歓迎していた。これまでずっと一人で生きてきた彼女には馴染みのない感覚で、少しむずがゆかった。
「よろしくお願いしますっ!」
運命が回り始める。
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