二章 夜明けの演者

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  ♪  その後。ささやかなおやつタイムが終わるとまた劇の練習が始まる。ちなみに先程の「封神の七雄」の練習は実はダミーで本当の練習は「蒼穹と太陽」だったりする。この物語は今から二万年前という設定で、闇の神から「空」をもらったとされる伝説のある人物の劇である。「封神の七雄」の練習は、動きの練習のためにやったにすぎない。  ちなみにこの劇の主人公はフィレグニオという少年なのだが「性別が違っても問題ないさ!」ということで、女の子であるフルージアがその役に抜擢されている。彼は闇神ヴァイルハイネンに不老不死をもらい実質上の空の支配者となったという話だが、真偽のほどは確かでない。そもそも今生きているとしたって、空の果てなんて確かめようがないのだから仕方がない。  さてさて練習が始まる。 「昔々、フィレグニオという少年がいました。彼は空にひどく憧れていました」  ナレーターの次はフルージアの番である。台本はまだ全部覚えきれてはいないが、最初のところは大丈夫だ。 「僕はこの空を自由に飛びたい! たとえ戦乱の中でだって、空だけは綺麗なままだから!」  フィレグニオは突然変異で生まれた子で、なぜかその背には生まれつき翼があったという。彼がのちの翼持つ民「アシェラルの民」の祖先となる。  喋ったあとは舞台から去り、代わりにヴァイルハイネン役のジェルダが現れる。彼の衣装は特別製だ。鴉の姿を好むとされる闇神に合わせて、衣装も鴉を模したものになっているのだ。  彼は独白する。 「この世界に生まれ落ちて幾千年。地上界というところに来たが、何だこの荒廃は? 人間なる種族はなんと醜いのだ! こんなものをわざわざ生み出すとは!」  その言葉の次は再びナレーション。 「その時代は、戦乱の絶えることのない時代でした。国境線は毎日というもの書きかわり、地図なんて何の役にも立たない時代でした。闇神が呆れるのも当然です。人間の、なんて醜かったことか! 我々は……えーと、次の言葉はなんでしたっけ?」 「……覚えてないのかい」  呆れたようにウォルシュが笑った。ナレーターはううんと首を振った。 「一瞬飛んでました! 今思い出しました。我々は戦う以外のことを知らなかったのです!」 「練習だからまだいいけどね。本番は気をつけてね」 「はいっ! じゃ、次は脇役さんたち、お願いします!」 「反省の言葉はないのかい……」
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