1章 少女と記憶を失った青年

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1章 少女と記憶を失った青年

 (ここはどこだ.....)  雨降る夜、青年──ソルファ=フォルスは虚ろな意識の中、うつ伏せの状態で大きな門の前で目を覚ました。  全身には刻まれた刃の跡がある。  (っ、なぜ俺はこんな所に)  記憶を辿(たど)ろうとする。が、ここまでの経緯、昨日までの数日の出来事など、何ヶ所かの部分の記憶が霧のかかったように思い出すことが出来ない。  なにかとても大切なことな気がするのに。  手をついて体を起こそうと考えるが全身が痛み、傷口が開いていくような感覚に襲われる。  激痛に耐えつつ、どうするものかと考えていたとき目の前の門が開いた。そこから幼年学校を卒業したてで13歳ごろと見られる、傘を持った少女が出てきた。  少女は足元の少し前にいるソルファを見ると「きゃっ」と可愛らしいが、(おび)えるような悲鳴をあげた。それもそうだろう。見ず知らずの男が自分の家の前に倒れていて、しかも、全身は刃で切り刻まれていて、血を流しているのだから。  それでも一呼吸をすると、勇気を振り絞ったようにソルファへ話しかけた。 「あ、あの...貴方は誰でしょうか?」  それより先に治療をしてくれないかと見ず知らずの少女へ言おうとするが、声が出ない。いや、助けてもらう側ならそんなことを言うのは失礼極まりないというところだろう。  少しの沈黙の後、少女はソルファの意図を汲み取ったように言葉を発した。 「あ、あの、もしかして喋れないぐらいの怪我なのですか?」  この子は将来相手の心情を考えられるいい子になるんじゃないか、とそんなことを考えたが、そんなことを考えるときではない。そう、少女が言ったようにソルファは外傷だけでなく、内蔵へのダメージも多少なりともあったのだ。 「だ、誰か呼んで来ます!」  そんなことを言い残し、少女は家の中へ向かって走っていった。  自分の妹のようだと思った。  (ん?俺に妹なんていたか?)  そんな疑念を抱いたとき、激しい頭痛がソルファを襲った。そこでソルファの意識は途絶えた。
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