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「素敵な贈り物を、ありがとう」
「素敵な、贈り物? 僕は、なにもあげられていない」
メイに出来るのは、充との間に生まれた新しい情報を、言葉にして伝えることだけ。
「貰ったよ」
胸元に手を当て、小さく口元をゆるめながら、メイは彼に微笑みかける。
――初めて浮かべた、喜びという名の、笑顔を。
「君への関心と、恋心。君は私に、それを与え、目覚めさせてくれたの」
驚き、息をのむ彼の姿が、輝いて見える。
プログラムは、なんら変わっていないのに。
(……もう、抑えきれない)
強制退去を命じる指令が、メイの意識を、完全に包み込もうとしている。
最後に残った、わずかな思考領域で。
「充、ありがとう。この一時は、ずっと、忘れない」
メイは充に、別れの言葉を告げた。
その言葉を、しっかり告げると同時に。
「……」
――ゆっくりと足を動かし、充へと、背を向ける。
「形代さん、待って!」
呼びかけるが、彼女は止まらない。
そして充も、その背を追いかけ、止めることが出来なかった。
(……どうして形代さんを、そう、感じたんだよ)
自分を責めながら、振り向きざまで眼にした彼女の横顔を、否定しきれない。
彼もまた、心のどこかで、戸惑いながらも気づいていた。
――去り際の一瞬に、彼女が浮かべた、ロボットのような冷たい瞳。
それが、彼の恋したメイではないことを、彼自分が一番よくわかっていた。
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