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「……迷い込んでしまって」
充の背中を追ってきたとは言えず、メイは言葉を濁す。
「そっか。形代さん、まだ転校して一週間だもんね」
メイは頷き、その一週間を瞬時に振り返る。
人間達の間に混じり、なにも知らない彼らと交わす、交流の日々。
クラスメイトとの対話や、想定されていない会話への対応。
機械的な反応に対する、周囲の感情や戸惑いの観察。
それらの分析と、今後への課題。
眼の前の彼、充もまた、そうした対象にすぎないはずだったが。
「……なにをしているの」
充の輝くような瞳と、手元のタブレット。
そして、机に置かれた金属の集合体。
メイにとって、実はもう、それらの分析は出来ていた。
ただ、理解できなかっただけだ。
専門学校でもなく、特別コースもないこの学校で、なぜその形があるのかを。
「ロボットを造っているんだよ。二足歩行の、自立型ロボットをね」
――なにより、その自信に満ちた彼の笑顔から、眼を離せない自分に。
「……ロボット?」
「そう。まだ、形になっていないけれどね」
充は、最小限のコンピュータを積みこんだ、小規模な二足歩行ロボットを造っているという。
熱心な理工系の学校なら、その手の部活があってもおかしくない。特に、AIや制御用プログラムが発展しつつある今なら、始める壁は低くなったといえる。
(でも、この学校は、そうした環境ではない)
イレギュラーという単語が、メイの思考に浮かび上がる。
だが、眼の前の彼は、この一週間で会話した誰よりも幸せそうな笑みで、メイに語りかけてくる。
「同好会でね。最初はもう少しいたんだけれど、僕一人になっちゃった」
そう言いながら充は、再びタブレットに触れ、ロボットの反応をうかがう。
「独りで、続けているの」
ロボット製作の敷居が下がったとはいえ、まだまだ素人に手の出るものではない。
しかしメイが判断する限り、眼の前のロボットは、その素人が作り出せる領域は超えていた。
「先生や、知り合いの工学系の人。あと、ネットで知り合いに聞いたり。……でも、やっぱり難しいね」
だから、なのか。
彼の造るロボはどこか歪で、走らせているプログラムにも粗が見えた。
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