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「……もう、形代さんも知っていると想うけれど。僕は、『人形』って呼ばれるくらいに、他人に対して冷めた人間だったんだ」
かつて充は、日々を退屈に過ごしていたという。
高校へ進学し、一目置かれるほどの成績を残しても、どこかつまらなさを感じていた。
「そんな時だった。友人達と、あの子を見たのは」
偏屈ともささやかれる充を、何人かの知り合いは、よく街へと誘ってくれた。
嫌ではなかったが、特に面白さを感じない遊びの中で、ふと、それは眼に入った。
「最新型の、自律式女性アンドロイド。その一般公開を、野外でやっていたんだ」
(――特注型の仲間が、お披露目された時かしら)
類推されるのは、踊りや歌などの機能のみに特化した仲間達が、一般に公開されたイベント。
一つの能力に特化した彼らは、世間からの関心を強く集めたようだった。
「……あの日見た、舞い踊る、彼女の姿。どうしてか僕は、それに惹きつけられてしまった」
優しく微笑み、遠くを見る、彼の笑顔。
――自分以外のアンドロイドに向けられた、淡い笑顔。
(……ざわめくのは、なに?)
回路に生まれた、想定しない混信。
理由を判断できないメイを気にせず、充は、言葉を続ける。
「奪われて、与えられたんだ」
言われたままの言葉を言い換え、メイは返答する。
「入れ替えられたというの。でもその子は、あなたの眼の前で舞っただけだわ。なにも与えず、奪っていない」
否定するような口調を、メイの回路は止められなかった。
そしてそんなメイに、充は、静かに首をふって答えた。
「心をさ、奪われたんだよ。そして、与えられたんだ。誰かを好きになるって、心をね」
「心……」
「だからこれは、まず一歩なんだ」
形になりつつあるロボットを見つめながら、充は語る。
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