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「転校とかも考えたけれど、その前になにかを造りたかった。形にしてから、本気か、自分に問いたかったんだ」
両親の説得や、不十分な知識の吸収。
将来、その仕事に近づくための道筋や、そのために必要な費用。
充は、本当に自分がその道を選ぶのか、今を歩みながら決めたいと伝えてきた。
「今は、コイツを造り上げたいなって、そう想う」
手元のロボットに触れながら、充は、優しい瞳で語る。
「僕が、彼女達に目標を与えてもらったように。僕もいつか、そんな存在を、形にしてみたい。……そう、想ってるんだ」
――そうして微笑む彼の笑顔は、メイの回路に、意図しない混信を再び巻き起こす。
(まただわ。また、混じる)
充と出会う時、程度はあれど、メイはいつもそれを感じている。
彼のささやく言葉に、内部の解析プログラムが、過剰に反応しているだけのことなのに。
(視界を、外せない)
混信による、思考の処理落ち。
障害であるだけのそれが――今のメイにとって、なぜか心地よく判断される。
「……こうして形代さんと、このことについて話せるのも、夢みたいだよ」
「どうして? ずっと私を見ていたなら、話しかければよかったのに」
眼を見開いて驚いた後、顔を染めて、申し訳なさそうに顔を下向ける。
「なにを恥ずかしがっているの」
「罪悪感と、気にしてなさそうな形代さんに、申し訳がないから」
「……?」
充の言うことが、よく判断できない。
鈍感でゆるく、データーではうまく当てはめられない、人間とのコミュニケーション。
(私は、それを、楽しんでいるのかしら)
――だが、こうした自問すらも、二人だけのものではない。
メイの思考や反応の全ては、常時つながった通信網の先で、監視され続けている。
充との、二人だけに見える、この一時すら。
(――私の眼を通して、今の全ては、サンプリングされている)
常に監視されている環境は、メイにとって、極自然なものだった。
なのに今、なぜか、そうした事実があると言うことを、嫌に強く意識してしまう。
(……刺激される今も、一つの、サンプルにすぎない)
どこか刺激される、彼との時間。
その終わりが来ることも、メイはすでに認識し、判断を終えている。
……後はただ、その時が過ぎるのを、受け入れるだけなのだ。
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