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※※※
――メイのテスト期間は、瞬く間に過ぎ去っていった。
「形代さん、転校するんだってね」
放課後の教室で、充は手元のタブレットから眼を離し、問いかける。
「ええ。元々、一時的な転入だったから」
「……残念だな」
気落ちする彼の顔は、メイにとって、初めて見るもの。
「寂しくなるね」
「私がいなくても、あなたの周りに人はいるわ」
「……その寂しいとは、違うんだ」
曇る充の顔に、ざわめくメイの思考。
言葉を迷うメイに、充は、まっすぐな視線を向ける。
「はっきり言うよ。悔やむくらいなら、今、この時に」
その瞳に、冷静であるべき彼女の思考は、さらに混乱と停滞を生じた。
ただ、彼の言葉を待つことこそを、最優先事項として判断していた。
「――形代さん。一目見た時から、好きでした」
「……っ!」
充の言葉で、落ち着くかと想っていた思考は、より混信を増していく。
「一目、見た時から」
「初めは、ね。でも、本当に惹かれたのは……二人でロボットを造り上げている時間が、とても楽しくて、嬉しかったからだよ」
「二人で、造り上げている、時間」
充の横には、あの時よりも完成度を増した、二足歩行ロボットが立っている。
「……だから、ずっと支えてくれた形代さんを、好きになってはいけないかな」
すがるような、求めるような、充の寂しげな笑顔。
(――断らなければ。私は、去るべき存在なのだから)
アンドロイドとしての判断が、その口を開き、断りを述べようとした時。
――メイの回路が、自分でも意図しない答えを、紡ぎだした。
「私は、人間じゃないの」
「えっ?」
「私は……アンドロイド、なの」
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