芽生えた想いの届く先は

9/13
前へ
/13ページ
次へ
 ※※※  ――メイのテスト期間は、瞬く間に過ぎ去っていった。 「形代さん、転校するんだってね」  放課後の教室で、充は手元のタブレットから眼を離し、問いかける。 「ええ。元々、一時的な転入だったから」 「……残念だな」  気落ちする彼の顔は、メイにとって、初めて見るもの。 「寂しくなるね」 「私がいなくても、あなたの周りに人はいるわ」 「……その寂しいとは、違うんだ」  曇る充の顔に、ざわめくメイの思考。  言葉を迷うメイに、充は、まっすぐな視線を向ける。 「はっきり言うよ。悔やむくらいなら、今、この時に」  その瞳に、冷静であるべき彼女の思考は、さらに混乱と停滞を生じた。  ただ、彼の言葉を待つことこそを、最優先事項として判断していた。 「――形代さん。一目見た時から、好きでした」 「……っ!」  充の言葉で、落ち着くかと想っていた思考は、より混信を増していく。 「一目、見た時から」 「初めは、ね。でも、本当に惹かれたのは……二人でロボットを造り上げている時間が、とても楽しくて、嬉しかったからだよ」 「二人で、造り上げている、時間」  充の横には、あの時よりも完成度を増した、二足歩行ロボットが立っている。 「……だから、ずっと支えてくれた形代さんを、好きになってはいけないかな」  すがるような、求めるような、充の寂しげな笑顔。 (――断らなければ。私は、去るべき存在なのだから)  アンドロイドとしての判断が、その口を開き、断りを述べようとした時。  ――メイの回路が、自分でも意図しない答えを、紡ぎだした。 「私は、人間じゃないの」 「えっ?」 「私は……アンドロイド、なの」
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加