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アパートに着くとエレベーターが5階からずっと降りてこなくって。
まわった外階段の灯りが一つ切れていて、
おかげで躓いて転びそうになり、手を突いたせいで掌を痛めた。
マジ、泣きそう。
部屋に入ったらさっき買った酎ハイ飲んで泣いてやる。
「――っ、」
3階に辿り着いた私は角を曲がって息を呑んだ。
私の部屋の前で、佇む影。
世界で今一番、会いたくない男。
唇を噛みしめて歩く。俯いて、視線は斜め下。
私が勢いを弱めずドアの前まで突き進んだから、
その人は一歩下がって私が鍵を出すのをじっと見てた。
「・・・・ごめん」
聞こえたけど返事なんかしない。
「母親に、怒られた」
マザコンめ。だからって謝りにきたの?
先日挨拶に行ったばかりの実家に、また今日も私を連れて行こうとした彼。
お母さんの誕生日だなんて聞いてなかったし。
お化粧も服のチョイスも、そんなつもりじゃ無かったのに。
黙りこくった私の、彼へのプレゼントを入れた紙袋にも気づかず、
嬉しそうに母親の料理の腕を自慢する彼の助手席で、
私は涙を堪えた。
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