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「っ、・・・・ごめん、なさいっ、」
涙が込み上げてきて、彼に手を取られたまましゃがみ込む私。
ポロポロ零れる涙を片手で拭っていると、ゆっくり手を離されて。
「・・・・俺じゃ、駄目?」
悲しそうな声が聞こえた。
「付き合って1年も経たないけど。
まだ駆け出しの弁護士だし、金持ちじゃないけど。
綾花を幸せにしたい気持ちは、誰にも負けないと、」
「違っ、・・・・ごめんなさい、今日は、勝手に帰っちゃって」
ああ、その事、と彼が肩の力を抜く。
「おかあさんの、お誕生日だったのに」
大人げなかったとは、どこかで思っていた。
付き合って初めてのイブだからって、彼女である自分の機嫌をとらない彼に何も言わず帰って来た自分を、嫌な女だと・・・・。
嫌いだったのは、大嫌いだったのは、
私自身だった。
「あー。あの人も今日俺が行くとは思ってなかったみたいで。
親父と『映画見てディナーの予定だ』って速攻追い返された」
「・・・・、え? ケーキも、注文してたのに?」
「ケーキの注文は兄貴が・・・・。俺は、プロポーズして、そのまま親に報告しようと・・・・。母親の誕生日プレゼントにもなるかな、って」
あの人綾花のことめちゃ気に入ったって言ってたから、と。
人差し指で頬を掻いて、彼はもう一度私の手を取る。
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