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「羊が一匹、羊が二匹、羊が三匹……」
見渡す限り牧草地の広がる、広大な景色の中を車で走っている。目の前には一本道が続いていて、車を走らせてから約一時間、対向車はない。人すらいない。いるのは青々とした草を食む羊ばかりだ。
「羊が約150匹……羊、ヒツジ、周り全部、羊!」
トイレ休憩に立ち寄った小さなスーパーマーケットで、ケイと運転を交代した。助手席に座るケイは、窓を開け、風を受けながら、羊を数えていた。けれど、開始早々、数えきれない程の羊の群れに遭遇してしまい、彼の中で始まった「羊を数えるゲーム」は、すぐに終了した。
「テカポ湖までどれくらいよ?」
「うーん、スマホのナビだともうちょっとかなぁ……」
「着いたら飯食おう。もうそろそろ昼だよな? 腹減った」
「正確な腹時計をお持ちで。もし、空腹に耐えられなかったら、リュックにチョコバー入ってるよ」
「さすが、アオイちゃん、気が利くぅ」
ケイは、後部座席を振り返ると、僕のリュックのポケットから、チョコバーを取り出した。
「アオイちゃんは?」
「ん、俺はいいよ。大丈夫」
「そっか」とケイは頷くと、鼻歌を歌いながら、チョコバーを齧る。
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