ロマーシカのルカ

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ロマーシカのルカ

 青い海の上に大陸がある。この大陸に定まった名前はなく、北方の大帝国では「マテリーク」、東方では「ダーリウ」、西方旧王国領辺りの者は「カンティナン」と呼ぶきりであり、それらの言葉はいずれも各地方で「陸」だの「大陸」だのという意味でしかない。なにせこの大陸より他のことはほとんど知られていない。海沿いの民や、あるいは船乗りたちはその周りの島のことも知ってはいるが、それらはみな島、せいぜい列島や群島に過ぎず、「大陸」と呼べるものは一つしかない。だからこの大陸に、他と区別するための名は必要がないのだった。  大陸の北方に位置する帝国もまた「帝国」あるいは「北方帝国」とだけ呼ばれることが多い。ごく稀に、例えば歴史について語る時などは、過去の王国や帝国と区別するために呼ばれる「パドゥス=ヴォル帝国」という正式名称もないことはないのだが、今現在を暮らす民草の多くにとって「帝国」といえばこの北方大帝国以外を指すことはないので、やはり不自由はしないのだった。     
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