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それからというもの、東雲は特に何があるわけでもなく順調に仕事を進めていた。企業側からも新人ながら、それを感じさせないような働きぶりだと評価されるほどだった。
そんなある日の昼のことである。昼食を済ませた東雲は仕事の持ち場に戻るためエレベーターに乗ろうとしていた。閉ボタンを押そうとしたところに佐野が息を切らせて同じエレベーターに乗り込んだ。
「危な…… 閉まるところだった」
「す、すみません」
「いや、いいよいいよ……って…」
ここでやっと佐野が東雲に気づいたようである。おそらく今の今まで東雲がここに務めていることすら知らなかったのであろう。
「徹…… 徹か、何でここに……」
「それはこっちの台詞だよ」
「何故って、ここは俺の親が持ってる会社が提携している所で今回の仕事も親が勝手に俺に一任してきて……」
事情を聞くと、二人の間に沈黙が続く。その 空気はなんだかお互いに何かを遠慮しているような我慢しているようなそんなもどかしくて複雑な空気だった。
そうして間もなく、東雲が降りる階にエレベーターが行き着いた。
扉が開き、出ていこうとする東雲に慌ててさのはそれを引き止めた。
「な、なんだよ」
「話したいことがある、今日仕事終わったら一緒に飯いこう
仕事終わったら電話して。これ、俺の電話番号だから」
そう言って、佐野は自らの名刺を無理やり東雲に握らせた。東雲はそれを返そうとしたがそれはされることは無く軽く押されてエレベーターから出た時に丁度その扉は閉ざされてしまった。
「ど、どうしろっていうんだよ」
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