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現在次期国王に一番近いと呼び声高いのは、白川優という名の少年だ。この少年は京極の幼馴染みだった。
幼いころから人見知りが激しく、きつい性格をしていた為に周囲の同い年の子供たちからはかなり敬遠されていた京極が、唯一心を許していた存在がこの白川である。そんなことからも、彼が王としての資質に溢れていることが窺い知れた。
京極も魔導力を持っているため、将来は魔導師としてこの国に仕えることとなる。それは魔導力を持つ者にとっては義務になるため、拒絶は許されない。
その時に仕える王は、恐らく白川になるだろう。それが幸いなのは京極なのか、それとも倭国なのか、微妙なところだろう。もし白川以外が王になっていたのなら、ひどく扱いづらい魔導師となることは必至だからだ。
ともあれ京極は幼いころから才能には溢れていたが、非常に子供らしからぬ子供だった。
だがそんな京極でも、姉にだけは違う。両親を早くに亡くした京極のことを不憫に思い、愛情を注いで育ててくれた姉の雅樂だけには、素直に懐いていた。
そんな雅樂の様子がおかしくなったことに逸早く気付いたのは、やはり京極だ。
どこか上の空で、突然物思いに耽ったりする。そんな姉にどうかしたのかと尋ねても、彼女はただはにかんだように微笑むだけで、まだ子供だった京極にはその意味がちっとも分らなかった。
だから白川に相談してみたら、思ってもみなかったことを指摘され、大きな瞳をぱちりと瞬きさせる。
「え?」
「だからさ。雅樂さん、好きな人ができたんじゃないか?」
にこにこといつもと変わらぬ夏の陽差しのような眩しい笑顔を浮かべた白川のクマのような顔が、この時ほど憎いと思ったことはない。
雅樂が好きになった?自分以外の誰かを?
とくんと鼓動が鳴った。白川が話し掛けてきているようだったが、耳鳴りがして何も聞こえない。
京極にとっては、雅樂が世界のすべてだった。その雅樂が自分ではない誰かのモノになる。そう考えるだけで体の芯がすっと冷え込んだ。
雅樂だって妙齢の女性なのだから、そのうち誰かの許に嫁ぐ日が来ると、理解はしていたが、実感はしていなかったのだろう。
それから家にどうやって帰ったのかさえ、覚えていない。気が付くと、家の前に立ち尽くしていた。
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