第1章

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 呆気に取られたように九条を見る。そんな魔法のようなことが出来るのか。他の者も同様だったようで、会議の場は水を打ったように静まり返った。 「あんたは聖司郎さまを、何だと思ってるんだ!?」  最初に我に返り、烈火の如く激怒して反論したのは寺町だ。彼は聖司郎に傾倒している。当然の反応だろう。  そんな彼の反応は想定済みだったのか。九条は厭味なほどに冷静に切り替えした。 「我々が一番に優先せねばならないことは何だ?この世界からヴァンパイアを駆逐し、人が安心して暮らせるようにすることではないのか」 「だからって、聖司郎さまの意思はどうなる!」 「そんなものは大事の前の小事だ」  ここは九条に分があることは、寺町も分かっていたのだろう。寺町の反論は単なる感情論だ。人間という種族の未来を考えるなら例え非人道的であったとしても、九条の提案が最善であることは誰の目からみても明らかだった。   「陛下。ご決断を……」    黙り込んだ寺町に、これ以上の反論はなしとみたのか。倭に最終決断を迫る。  倭も本来なら強固に反対を、したかったであろう。我が子の人格を否定され、必要な能力だけを利用して後は葬り去られようといているのだ。それは単に聖司郎を道具とだけ見なすということに他ならない。  だが彼は非常に優れた君主だった。逆に我が子だからこそ国の為、人の為、未来の為に差し出すべきだと考えたのだろう。葛藤する自分を制御し、九条の案を採用することに決定したのである。  それでも寺町と大宮は、最後まで反対していた。他のメンバーも乗り気ではなかったようだ。だが京極に、ならば代替案を出せ、と言われて口を噤むしかなかったらしい。  術は当然、発案者の九条が掛けることになった。彼は幻覚催眠系の術が得意だ。  それでもやはり難しい術なのだという。下手をすれば、対象者は廃人になる可能性もあると言っていた。  そのため慎重にも慎重を期し、時間を掛けて術を施していく。  そして訪れた、焦がれるほどに待ち詫びた聖司郎の元服の日。  ヴィクトールは、必ずその日に現れるはずだ。
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