第1章

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 あれほど聖司郎が求めていた、ヴィクトールとの再会。それが術の発動の鍵となるらしい。一旦発動されれば今の人格は強制的に封じ込められ、二度とその人格が表に現れることはないのだと、教えてくれた。思わず口許に冷酷な弧を描く、そんな残酷なことを敢えてする九条に、敬服さえした。  斯くして予想通りヴィクトールは姿を現し、その姿と名前を以て聖司郎の人格を、その奥深くに封じ込めることに成功したのだ。  代わりに与えられた新しい人格はヴァンパイアを憎み、こちらが望んだ通り躊躇なく攻撃し始める。実に思惑通り動いてくれた。ヴァンパイアを完全に否定して、ヴィクトール相手に互角に戦ってみせ、手傷まで負わせたのだ。  ヴィクトールの絶望に彩られた瞳。彼は気付かない。聖司郎の人格が封印され、その上に新しい人格を植え付けられているだけだということを……。  それを見た途端、我知らず冷酷な笑みが浮かんだ。所詮彼らの絆など、この程度にしかすぎない。目の前にいる相手が、本当に今まで追い求めていた者かどうかさえ判別することも、信用し切ることも出来ないのだ。  封じ込められた聖司郎の人格は、外の様子を知ることが出来るのだろうか。もし出来るのであれば、今頃どんな思いでヴィクトールを見ているのか。  きっと本当の自分ではないことを分かってもらえずに、打ちのめされているだろう。  こんなものではない。姉がクリストフに裏切られたと自ら気付いた時の絶望感は、恐らくこんなものではなかったはずだ。  分かっている。姉とのことは、二人には関係ないということは……。それでも人間とヴァンパイアが結ばれるなど、絶対に認めるわけにはいかない。  この時ヴィクトールを撃退したことにより、皇太子でもある聖司郎は国民から圧倒的な人気を得た。  国民の士気も上がっている。この機に乗じて、一気にヴァンパイアを殲滅すべきだ。聖司郎は寺町にしごかれたおかげで剣術の腕も上々な上、あの能力をもっている。すぐさま実践に投入できるだろう。  すでにこの元服の儀に合わせ、攻撃の準備は出来ていた。もう待つつもりはない。  すぐに軍議が開かれて始祖に対する攻撃が決定され、最初の目標は京極の主張通りクリストフと決まった。  攻撃を開始したのは、元服の儀から四日後のことだ。
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