第1章

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 あまりにも呆気なかった。聖司郎がその能力でヴァンパイア達の魔力をすべて封じ込めたのだから、当然の結果と言ってしまえばそれまでだろう。  ヴァンパイア達は初めて遭遇する聖司郎の特殊能力に狼狽え、魔力が使えないことに恐慌し、為すすべもなく魔道師たちに倒されていく。  闘いと呼べるものでもない一方的な殺戮が繰り広げられる城内で、京極はその姿を探した。  この世界において、希少な純血のヴァンパイア。その能力は人間を遥かに凌駕する。その中でも血まみれクリスと称され、最も残忍だと恐れられた紅蓮のヴァンパイア、クリストフ・フォン・カルディナール。  京極のたった一人の大切な姉を死に追いやった、憎んでも憎みきれない男だ。  どうあっても、この手で八つ裂きにしてやる。そのために今まで、血の滲むような努力を積み重ねてきたのだ。今ならそれが叶う。魔力が使えない相手に卑怯だと謗られようが、知ったことではない。元々の身体的能力においても、大きな差異があるのだ。それぐらいのハンディキャップを貰っても、バチは当たるまい。   「紅蓮のォォォ!!」  ようやく見付けた彼は、既に聖司郎と戦闘中だった。それに割って入ろうと地を蹴った瞬間、思わぬ横槍が入る。   「お前をクリスに近付けるわけにはいかん!!」  声と同時に、白刃が風を切って振り下ろされる。それを間一髪で飛び退って避けた。その京極を追うようにして、剣が繰り出される。  剣の腕前といい、恐らくクリストフの懐刀と呼ばれる岡本御影だろう。彼のコピーの中でも極めて戦闘能力が高いと、大宮の報告に書いてあったのを思い出した。  チッと舌を鳴らす。魔力を無力化していても、彼の剣技は見事なものだった。  しかし剣の腕なら京極も負けていない。魔導力もだが、剣術においても京極は修練を怠ってはいなかった。倭国でも彼と対等に勝負を出来る者と言えば、数えるほどしかいない。  しかも岡本は聖司郎の能力で、魔力を吸い取られている。その感覚に体はひどく重く、倦怠感を感じているはずだ。反面倭国の魔導師たちは、聖司郎の魔導を遮断するシールドが施されていた。  そんな状態では、勝敗など目に見えている。  僅かな隙を突き、一気に間合いに入り込む。腰を落として、溜めてから突きを食らわした。それはズプリと音を立てて、岡本の胸部にのめり込む。
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