第1章

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 肉を切り裂く感触には、もう慣れた。そのまま刀に魔導を注ぐ。 「ぐっ、あっあぁぁ!!」  不死に近い体を持つヴァンパイア。それはコピーとて同様だ。だがコピーならば、心臓に白刃を突き立て、魔導を注ぎ込めば仕留めることが出来る。  そして今、岡本は京極の前で倒れ伏し、その体が二度と動くことはなかった。肩で荒々しく息を継ぎながら、その様をじっと見守る。  コピーは始祖と違い、その肉体が死したからといって灰となることはない。そのまま岡本が絶命するのを見届けた京極は、はっと我に返り振り返った。  その視線の先では信じられない光景が繰り広げられており、その場に立ち尽くす。  クリストフが聖司郎に、神刀を突き立てられていた。だがそのままクリストフは、聖司郎を抱き締める。まるで自ら刀を、その体の奥深くに迎え入れるように……。  そしてその体が、突然光を放ちだす。あまりの眩しさに、思わず手で目を覆った。  永遠のようにも、刹那のようにも感じた時間。徐々に光が収まりをみせ、ようやく目を開けるとそこには既に、クリストフの姿はなかった。  聖司郎の足元に、僅かに散らばる灰。  始祖が消滅するのを初めて目の当たりにした京極は、その灰を呆然と見詰める。  あれほどの憎んだ男だった。ずっと我が手で殺すことだけを夢に見てきた。なのに彼はその望みを叶えることは決してせず、他人の手に掛かって逝ってしまったのだ。  途端に襲ってきたのは、あまりにも敢えなく逝ってしまったクリストフに対しての、憤りや苛立ちだった。  どうして自分以外の者の手に掛かったのか。それがひどく悔しくて、腹立だしい。  勿論このとき京極を始め、誰一人として想像さえしていなかった。クリストフが聖司郎に施された術に気付き、それを解除する術を掛けたことに……。そしてそのために聖司郎の刃を、わざと受け止めたということを……。  だからこそ驚いた。計画通りクリストフを滅ぼし、次の標的であるアーベルの城を襲撃していた最中に、術が綻んだことに……。  術が解けることはないと九条は断言していたのに、現れた本物の聖司郎の人格。それは本当に一瞬のことで、その反動のように聖司郎の能力は暴走した。  ヴィクトールか?アーベルの城にいたヴィクトール。諦めたと思っていたのに、そうではなかったのか。恐らくクリストフのことを聞き、ここに聖司郎が来ると踏んで駆けつけたのだろう。
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