第1章

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 それなのに彼は是とも否とも答えを返すこともなく、更に言い募った。 「俺たちには言葉がある。もう一度腹を割って話し合うべきだ」 「何言ってやがる!そんな必要はねぇ!!ヴァンパイアは一人残らずぶっ殺す!!」  それこそ、今更だ。  誰も姉の話など聞かなかった。自分の言い分も聞いてくれなかった。  それなのに何故、今頃になってそんなことを言うのか。  憎悪にも似た感情が込み上がってくるのを止めることも出来ずに、思わず叫んだ。だが次に言い放たれた寺町の台詞に、言葉も返すことも出来ずにその場に立ち尽くした。 「それは単なる、お前の私怨じゃないのか?」    嗚呼、気付かれていたのか。  そうだ。これは完全なる私怨だ。いや。それどころか聖司郎とヴィクトールからしてみれば、単なる八つ当たりにしか過ぎない。  そうと分かっていても尚、この憎悪は止まらないのだ。  クリストフはもうこの世にいない。その存在さえ消え去れば、この感情も儚く消えてなくなるのだと思っていた。  なのにそれはなくなるどころか、更に膨らむばかりで京極を支配していく。  だからもう、進むしかないのだ。自分はこの感情に流されていくと決めたのだから……。どこに辿り着くのかなんて分からない。例えばそれが破滅なのだとしても、姉のために自分がしてやれることはこれしか残されていなかった。   「分かってんだろうな?これは立派な反逆行為だぜ」 「陛下なら、話せば分かる」    それが悔し紛れから出た言葉だとは、自分でも分かっていた。  誰が正しいのか。もうそんなことはどうでもいい。ヴァンパイアは一人残さずこの世から抹殺する。  それが自分の中の、たった一つの正義だ。 「ならおめェたちはそこにいろ!金色(こんじき)は俺が仕留める!!」  そう叫んだと同時に、一気に間合いを詰めた。そのまま愛刀を抜き、レンツに斬り掛かる。  レンツはそれを予想していたのか。彼の持つ剣で、難なく受け止められた。それが切っ掛けだったかのように、隣では聖司郎がヴィクトールに神刀を向ける。  そうだ。それでいい。他の誰でもない聖司郎がヴィクトールを倒せば、このどす黒い感情は少しでも薄まるだろう。  そんな淡い期待を胸に、聖司郎とヴィクトールの勝負を目に留めながら、レンツに刃を振り下ろす。
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