第1章

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 まさか寺町や大宮だけではなく、他の連中までもが完全に裏切るとは思ってもみなかった。  孤立無援の中、それでも最後まで認めることは出来ない。 「お前の姉ちゃんのことは、哀れだとは思う。だがそれと殿下のことは関係ない」 「だまれ!!」  寺町がそれを口にするだけで、一気に怒りに支配された。  誰にも分かるわけがない。理解できるはずがないのだ。込み上げてくる感情が、魔導を暴走させる。   「お姉さんはお前に人を恨んで欲しい、傷付けてほしいって願うような人だったのか?」 「なら、なにもせずに許せってェのかィ!?弄ばれて、裏切り者と謗られ、殺された姉上の無念も晴らさずに、ヴァンパイア共を許せって……!?んなこたぁ、出来るわきゃぁねぇだろ!!」  冷静に問い掛けて来る聖司郎に、獰猛に吠える。  言われなくても、そんなことは分かっているのだ。確かに姉はそんな人ではなかった。人を恨むよりも、許す人だった。  だからこそ許せない。そんな心優しい姉を自分から奪った、この世のすべてが……。   「おめェだってヴァンパイアの味方をしやがって、立派な裏切り者じゃねぇか!!なんでおめェはよくって、姉上は殺されなきゃなんなかった!?」  ずっとずっと蟠っていた想い。  何故姉は断罪され、聖司郎だけ許されるのか。そんな理不尽なこと、誰が認めても自分だけは認めない。   「それこそ貴様の姉のことなど、私たちには何の関係あるまい。私は聖司郎を永遠に愛し続けるし、聖司郎も私を愛し続ける。それを貴様に邪魔される謂われはない」 「てめぇぇぇ!!」  ヴィクトールの言い分は、尤もだ。だがそれは、決して言ってはならない台詞だった。  逆燐に触れた相手に向け、刀を構えて地を蹴る。  言葉なんていらない。どれほど言葉を尽くしてみても、彼らと理解し合うことなど永遠に出来るわけがないのだ。  どんな理由があろうとも、現在皇太子である聖司郎に刃を向ければ、立派な反逆者である。新月隊の隊士も聖司郎を護るために刀を構えた。  もう避けることの出来ない衝突。双方の刃が交わる、その瞬間のことだった。  突然、目も眩まんばかりの光が、部屋中を満たしたのは……。  周囲は光に満ち溢れ、何も見えない。傍にいるはずの仲間、いや、仲間だと思っていた連中や敵であるヴァンパイアの姿もなかった。  ただ暖かな光が、京極を包んでいる。   『奏ちゃん……』  
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