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その中で、声が零れ落ちた。
決して忘れることなど出来ない、懐かしい声。
「姉上……?」
そう呼び掛けると、まるでそれに呼応するかのように光が欠片となって降り注いでくる。
それで確信した。確かに姉はここにいるのだと……。
「姉上!姿を見せてください!!」
『それは出来ないの。ここにあるのは、私の思念だけ。あなたにどうしても伝えたいことがあって、お願いしたの』
返される言葉に、胸が潰されそうに痛んだ。しかし姉の台詞に疑問を感じて、思わず尋ねる。
「お願い?」
死人の願いなど、誰が聞くというのか。神という存在など、信じていない。本当に神がいるのならば、自分は姉を失うことなどなかったはずだ。
『そうよ。あなたは誤解しているわ』
「誤解?」
姉の謂わんとすることが全く理解できず、鸚鵡返しに聞き返す。それに姉は穏やかに言を継いだ。
『そう。こうやって私の思念を残しておいてくれたのは、栗須さんなのよ』
「なっ……!?」
思いがけず出てきた名に、言葉を失くす。
ここで出てくるはずのない名だ。クリストフが人間のために何かをするなど、あるはずがない。
なのに姉は、それを否定するのだ。
『違うの。栗須さんは本当に私を、愛してくれていたのよ。』
「な、何を言ってんですか……。だってあいつのせいで姉上は……!!」
死してまで、あの男を庇おうというのか。思わず上がった血に眩暈さえ感じるほど、怒りを覚えた。
それを宥めるように、姉は説明を続けたのだ。
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