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確かに初めて出会ったときは、クリストフのことをヴァンパイアだとは知らずに心惹かれた。
彼に乞われるがままに城の魔導師たちに差し入れをして、その結果の重大性に気が付いた時、初めて弟に言われたことを理解したのである。
栗須と名乗った彼は、ヴァンパイアなのだと……。
途端に怖くなった。家の扉を開けると、あちらこちらから、火の手の上がる町。それだけで町がどうなっているのか、想像するのも容易い。
恐怖に捕らわれ、悲鳴を上げそうになった時。彼が現れたのだ。
クリストフ・フォン・カルディナール。生まれて初めて心の底から愛した男。なのに彼は人間ではなかった。
「あなたはヴァンパイアなの?」
「そんなこと関係あるのか?俺の嫁になるんだろう?」
それは明らかな肯定の言葉だった。だが愛の言葉でもあったのだ。
それでも後悔と恐怖に支配されていた雅樂はそれに気付くこともできず、思わずテーブルの上に置いてあった刃物を掴み、斬り付けた。
途端に部屋中に、鉄錆びた匂いが充満する。
咄嗟に己の左目を押えたクリストフの指の間から緋色の雫が、音を立てて零れ落ちた。
「ごめんなさい、栗須さん。ごめんなさい……!!」
もう既に、自分が何に対して謝罪をしているのか。そんなことさえも分からずに、泣きじゃくる雅樂は、だから気付かなかった。己を見詰めるクリストフの瞳が、深い悲しみの色に沈んだことを……。そしてクリストフが、わざとその刃を受けたということさえも……。本来なら人間の女などに、始祖を傷付けることなど出来るわけがない
結局彼はそのまま言葉を発することなく、その場を立ち去った。混乱している雅樂には、今は何を言っても無駄だと悟っていたのだろう。
すぐに雅樂のしたことは、知れたらしい。家には憲兵が現れ、捕縛された。抵抗するつもりなどない。自分のやったことは、あまりにも罪深きことだ。
そして冷たい牢屋に繋がれて、ようやく冷静さを取り戻した雅樂はクリストフにしたことを思い出して、ただ体を震わせることしか出来なかった。
そうだ。愛していたのに……。彼が例え何であったとしても構わなかった。クリストフがクリストフであることには変わりがないのに、自分はなんて事をしてしまったのか。
この後、行われた裁判で正式に雅樂の罪が決定された。
国家反逆罪にて死罪。
当然の結果だ。それを静かに受け入れた。
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