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訴えるように見上げるが、彼女はただいつものようにやさしい微笑みを浮かべるだけだ。
「かまわねぇ。俺はもう帰る」
「ごめんなさいね。この子ったら人見知りが激しくて……」
踵を返す男に雅樂は京極をその場に置いて、慌てたように駆け寄る。
その姿に、ひどく衝撃を受けた。今までこんなことはなかったのだ。雅樂はいつだって京極のことを、一番に考えてくれていた。それなのに……。
京極は男の肩に手を置き、しなだれかかる様に寄り添う姉の姿に目を疑った。
「それより今夜、忘れるな」
「分かってるわ」
もう二人の声など、届かない。ただ茫然と立ち尽くして、京極のことなど最早眼中にないかのように会話を続ける二人を、眺めることしかできなかった。
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