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柳田さんは愛おしそうに紙袋を撫でた。その手元には新しく書き直されたカードがある。
先程、彼が文字を書いているところを横から見た。ペン先から描かれる文字はやはり修斗の物によく似ていて、小夏は軽い驚きと共に胸の痛みを覚えた。
ペン先を追っていた時、苦手な数学を教えてもらっていた遠い日の記憶に飲み込まれそうになった。慌てて意識を引き戻したが、胸の痛みはいつまでもしつこく残り続けた。
似た文字を書く人ならここにいる。けれど彼は修斗ではない。修斗はもうこの世のどこを探しても見つからない。
切ない胸の痛みは柳田さんの幸せな笑顔に溶かして消した。
本来の持ち主の元に戻り、彼がこんなに喜んでくれたのならここに来た意味はもうそれだけで十分だ。
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