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この公園は幼い頃から小夏にとって特別だった。ブランコと滑り台、それにジャングルジムしかないシンプルな公園だが、街を一望できる高台の上にあり、そちらに向いたベンチが等間隔で4つ置かれている。
そのうちの右から2番目が小夏たちの指定席だった。いつだったかどのベンチからの景色が一番美しいかと言う検証をして、結果、このベンチが一番だと結論が出た。毎日のように3人でここにいた日々が懐かしい。
冷えた空気が首筋を撫で、小夏は赤いチェックのマフラーに顔を埋めた。視界の半分が色褪せた赤で埋まる。
毎冬結局使い通してしまうが、もうこれを外で着けられるのは今年が最後になるかもしれない。
プレゼントされてから10年。男子中学生が恋人でもない女に選んだ安物のマフラーはもうとっくに使用期限を過ぎてしまっている。
「何してんの?」
ふと顔を上げると、ランニングウェアに身を包んだ男が隣に腰を降ろすところだった。短い黒髪から流れた汗が日焼けした肌を伝っていく。そうか、帰省していたのだと遅れてその事実を思い出す。
「何もしてない」
明らかな嘘を吐いて、目の前の街を見降ろす。てっきり「嘘つくなよ」なんて詮索されるものだと思っていたが、思いの外、駆は首に掛けたタオルで汗を拭っただけでとくに何も言わなかった。
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