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首に巻いたマフラーがじんわりと暖かかった。10年もの年月で防寒性は低くなったが、まだ確かに暖めると言う機能を果たしてはいる。もしかしたら来年も使えるかもしれないとまた捨て時を伸ばそうとしている自分がいる。
「そう言えば、昔ここでクリスマスプレゼント交換した時に話したよな。来年のクリスマスは……」
駆がそう話し出した時だった。
「小夏ちゃーん!」
背後から聞き覚えのある声がして、小夏は振り返った。公園の入り口でジャンパー姿の中年男性が大きく手を振っている。
家族でよく行くラーメン屋の店主である石山さんは小走りでこちらへやって来ると、小ぶりの紙袋を差し出してきた。
「小夏ちゃん、このプレゼントに心当たりないか?」
「え?」
お世辞にも新品とは言い難いくたびれた袋は、よくよく見ると、人気アクセサリーブランドのものだった。年齢を問わず人気のあるブランドで、女性へのクリスマスプレゼントの定番でもある。けれどもちろん小夏にこんな高価なものをプレゼントしてくれるような特別な人はいない。
「昨晩、最後に入ってきた客が長野から仕事で東京に出て来たって人でな。長野の自宅前でこのプレゼントを拾ったらしい。で、中にこんなカードが入ってて……」
石山さんは袋の中に手を突っ込み、名刺大のカードを取り出した。水に濡れたらしく、ボロボロになったカードには黒いボールペンで何かが書かれていた痕跡だけが残っている。
何とか読み取れるところと言えば、カードの一番上に書かれた〔Mer〕と一番下に書かれた〔東京都〕の二ヶ所で、〔Mer〕はおそらく〔Merry Christmas〕、〔東京都〕は住所でも書いてあったのだろうか。
「狭い村だから住人全員に聞いて回ったらしいんだが、誰もこのプレゼントに心当たりがなかったらしい。そんな村の交番に届けたところで持ち主が見つからず処分されるのが関の山だって、仕事のついでに東京の交番に届けたんだと。ところが長野で拾ったなら長野で遺失物届けを出してくれって言われたらしくてな。仕方なく持ち帰るところだったのを俺が預かったんだよ」
「石山さんが?」
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