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いまいち状況が読めず、石山さんを見ると、彼は思い出したように袋の口を大きく開け、中を小夏に見せた。
覗くと、おそらくネックレスが入っているだろう細長い箱が見えた。綺麗なラッピングが施され、赤いリボンが掛けられている。
それだけであれば首を横に振ったところだったが、赤いリボンに付けられたタグを見て、小夏は動きを止めた。メッセージが書き込めるようになったそこには力強い字で確かに〔小夏へ〕と書かれていた。
その字が遥か昔に見たものとよく似ている。テストや年賀状、借りたノートなどいろいろな場面で目にしていた字。
縋るように駆を見ると、彼は一瞬眉間に皺を寄せてから、袋の中身を覗き込んだ。何かに弾かれたようにタグを手に取り、それをじっと見つめている。彼の意識が遠い日の記憶の中に引き戻されているように思えた。
やがて「まさか」と言う言葉が口から零れ、ゆっくりと地面に落ちて行く。それが溶けて消えると、辺りは静寂に包まれた。
確かに〔小夏へ〕と書かれた文字は修斗のものによく似ている。けれど、修斗は中学3年生の9月、悪性リンパ腫との戦いの末、この世を去ったのだ。
その死を駆も小夏もこの目で見ているし、自宅に行けば仏壇の上に遺影もある。
「長野……」
駆はそう呟いてから、何かを考えるかのように黙りこくった。
紙袋の中をもう一度覗く。
プレゼントに付けられた〔小夏へ〕と言う文字は見れば見るほど修斗の物に思えて来る。
彼は確かに亡くなっている。葬式にも出たし、お骨になって戻って来たのもこの目で見た。
けれど、世の中には不思議な話もたくさんある。亡くなったはずの人から何かしらの形でメッセージを受け取ったと言う話はもはや巷に溢れている。
もしかしたらこれはそう言う類の物ではないのか。修斗の死から10年が経った今、彼は何か自分たちに伝えたいことがあるんじゃないだろうか。
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