ブラインドドッグ

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息子が子犬を拾ってきた。こいつ、目が見えないらしい。走っては電柱にぶつかる。不審に思ってみたら、そういうこと。身体は傷だらけ。「僕が目になる」泣かせてくれるね、うちのホラ息子。Twitterばっかでロクに勉強もしない。まあ、いい。親としてはこっちの方が安心。このご時世、ネットじゃ何に巻き込まれるかわからん。 「父ちゃん、くせーよ」 また始まった。俺は牛舎の人間だ。 「父ちゃんの臭いはハッシュタグついとる」 なかなか面白いことを言う息子。まあ、いい。とりあえず犬は息子に一任。 三日目だったかな。三日坊主なんて言葉がある通り、昔から息子は飽きやすい。犬がなおざりになってやしないかと小屋を覗く。 その時である。俺の顔は青ざめ、細い声をあげた。犬がいない。 子犬がいた小屋が倍以上に広く見える。引きちぎられた鎖。引き裂かれた絆。 こうしちゃいられん。俺は息子を呼び、アイツを探しに行く。今ごろ脳震盪でも起こしてないだろうか。車にひかれてないだろうか。答えの出ない不安が俺の頭をループする。 通りすぎる電柱にアイツの居場所を聞いてみる。どこまで行っても平行線。俺も息子も肩を落とした。俺は牛舎に帰った。牛はいい。これだけデカけりゃすぐ見つかる。そん時見つめてくる牛の目は同情でいっぱいだった。連日連夜アイツを探しに行った。アイツで始まる朝に、アイツで終わる夜。 相変わらず臭い服。相変わらず胡散臭い俺。 アイツは何処で何してるのか。 どっと疲れを小屋に分ける。その時である。 黄色い声が近づいてきた。俺はすぐアイツだとわかった。いや、アイツだと思い込んだ。声の主はアイツだった。 声を失った俺にまっすぐ飛びかかってきた。え、どうして。コイツ、目は見えてないはずだろ。 俺の服に頭を埋める犬。そこに答えはあった。きっとコイツは俺の臭いを追っかけてきたんだ。 息子はこの件を「犬も歩けば香(コウ)にあたる」と言った。香か幸か、その答えはこれから見つけていく。俺と息子とこの犬と。
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