46人が本棚に入れています
本棚に追加
/151ページ
それから長い長ーい年月を、花笠海月は海の底でゆくらーゆくらと過ごす。
時折、外敵が襲おうとしてくるが、何故が見えない壁にぶち当たったかのように弾き飛ばされて行った。更には餌の方が自然に口に飛び込んで来るのだった。
次第に、喜怒哀楽の感情が芽生え、意思と意志の力を持ち、思考力、空気を読む力も備わって行く。
どうやら自分は、神である月読命から特別な力を授かった事に気付いて行った。
ある日、青い青ーい海の底に、柔らかく届く陽の光を浴びてゆくらーゆくらとまったりしていた海月の脳内に、聞き覚えのある声が響く。
『花笠海月よ、時が来た! お前はこれより、ある人間……落ちぶれた下級貴族の男に出逢う。一家の家宝として、その力を存分に発揮するが良い。快楽と繁栄と名誉、そしてその対極にある滅びと破壊の力を!』
その声と共に、陽の光の方向へ浮上して行く。
やがて海面に顔を出すと、波に押し出されるようにして岸辺に打ち上げられた。
「おー! これは何と言う美しい花じゃ! 透明の海の花かの?」
初老の男の声が、頭上から聞こえた。
……なる程、これが人間。落ちぶれた下級貴族の男か。この男の娘か何かに仕える事になるのだな……
と海月は確信した。男は両手でそっと海月を掬い上げた。
最初のコメントを投稿しよう!