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わたしはホッとしたからか、眠くなってきた。布団の中で、奥村さんの温もりが伝わってくる。
「少し、良いところに連れていってやろうか」
別に、飲みに行けるならどこでも良い。
「教授が好きな店はどうだ?」
なぜそう訊かれたのかわからない。わたしは、「どこでも良いです」と、返した。
「喜ばないのか。意外だな」
奥村さんはまだ、わたしが教授のことを好きだと思っているんだった。
「どんな店に行きたい?」
「飲みに出かけたことがほとんどないので、特に思いつきません」
「雰囲気だけじゃなく、食事がうまい方が良いな?」
「そうですね……」と、返したものの、奥村さんが、前に、他の女の人と二人で行ったことのあるお店は、嫌かもしれない。
だからといって、デートで行ったお店は避けて欲しいと言うと変に思われる。
「奥村さんが、今まで行ったことのないお店が良いです」
「そんなことをして、とんでもなく不味い店だったらどうする?」
「それはそれで、面白いかもしれないです」
奥村さんはクスッと笑って「変わっているな」と言った。
ライトが消され、暗くなった。
「不味い店を狙っていくのも悪くないかもしれないな」
真っ暗ななか、奥村さんの声が聞こえる。
「それはさすがに……」と、言ったけれど、奥村さんと一緒に出かけられるなら、多少、味が悪くてもかまわない気がした。
単なる食事よりも、飲みにいくのは、特別感がある。
わたしは、森本さんへの報告の材料にできるからではなく、純粋に、明日の夜が、楽しみになった。
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