10日目

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 わたしはホッとしたからか、眠くなってきた。布団の中で、奥村さんの温もりが伝わってくる。 「少し、良いところに連れていってやろうか」  別に、飲みに行けるならどこでも良い。 「教授が好きな店はどうだ?」  なぜそう訊かれたのかわからない。わたしは、「どこでも良いです」と、返した。 「喜ばないのか。意外だな」    奥村さんはまだ、わたしが教授のことを好きだと思っているんだった。 「どんな店に行きたい?」 「飲みに出かけたことがほとんどないので、特に思いつきません」 「雰囲気だけじゃなく、食事がうまい方が良いな?」 「そうですね……」と、返したものの、奥村さんが、前に、他の女の人と二人で行ったことのあるお店は、嫌かもしれない。  だからといって、デートで行ったお店は避けて欲しいと言うと変に思われる。 「奥村さんが、今まで行ったことのないお店が良いです」 「そんなことをして、とんでもなく不味い店だったらどうする?」 「それはそれで、面白いかもしれないです」  奥村さんはクスッと笑って「変わっているな」と言った。  ライトが消され、暗くなった。 「不味い店を狙っていくのも悪くないかもしれないな」  真っ暗ななか、奥村さんの声が聞こえる。 「それはさすがに……」と、言ったけれど、奥村さんと一緒に出かけられるなら、多少、味が悪くてもかまわない気がした。  単なる食事よりも、飲みにいくのは、特別感がある。  わたしは、森本さんへの報告の材料にできるからではなく、純粋に、明日の夜が、楽しみになった。
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