デオキシス

14/32
前へ
/32ページ
次へ
30分が過ぎてもう一度電話をする。 「真守?俺…」 「真守は只今航平とお風呂でHの真っ最中です。電話には出られませ~ん。お掛け直し…」 「馬鹿言って、人の電話に勝手に出んな。ああ、コミ、ん、今行く」 電話の向こうで笑い声が聞こえている。 他愛のないことを言って、楽しそうにしている様子が浮かぶ。 すぐにドアが開き、真守はタオルを首に掛けて出て来た。 随分久しぶりに会う。 こんな顔をしていたんだっけ…? また、鼓動が速くなる。 「久しぶり…」 「ん、何?待ってたの?さっき言えばいいのに」 「ん、あのさ、プールのチケット貰ったんだけど…行かないかなと思って…これ」 「プール?桜浜?遊んでていいの?勝負の夏なんだろ」 「い、一日くらい…気分転換に…」 「気分転換…ね。なら、柏木とか柿本とか誘ってやれば?暑いし、なんか、桜浜まで行くのかったるくね?」 「そうだけど、どうせ閑にしてるんだろ」 「どうせ閑にしてるけど、明日は無理」 「あ、いや、あと少ししかないけど明日でなくていいんだ。都合のいい…いや、出来れば…」 28日と言おうとした時、玄関が開いて航平が出て来た。 「まぁ、コンビニ行くけど…あれ、歩夢じゃん、何?久しぶり」 「航平、航平っ、ついでに…あ、なんだタカッキィ、何してんの?お前も見てく?新着H…」 「そんなもん見ねぇよ。バカ。コミ、自分で行って来いよ。航ちゃん使うな」 「いいの。愛してるから。金、プリペイドな」 「はいはい、行って来ます。まぁは何か買って来るか?ポケットで溶けないチョコとか?」 「わはっ、あれはもぉ勘弁。航ちゃん、髪濡れてる。それ寒い。あのコンビニ冷凍庫並に寒いから、これ着てけよ」 三人の何気ない会話。 真守はチケットを口に咥えると、赤いチェックのシャツを脱いで、タンクトップの航平に着せている。 何気ない優しさ。 「んじゃ行って来るねぇ」 「あ、俺も帰る。じゃ、真守、また…」 「ああ、おやすみ」 「タカッキーおやすみぃ」 肩を組むようにして家に入る真守と小深山を見てから、自転車を引きずって歩く。 会話は途切れたままだった。
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加