デオキシス

15/32
前へ
/32ページ
次へ
「珍しいね。歩夢がまぁン家来るの」 「そう?」 「ん、いつもまぁがかまってんじゃん」 「あ、ん、最近は構われてないけど…」 「受験生だから気ィ遣ってんだろ」 「ん…」 「まぁは気遣いの人だからな。あれ?何、歩夢がそんな顔したら、まぁが可哀想じゃん」 「ん、なぁ、真守、映画のこと何か言ってたか?休み前の話なんだけど…」 「映画?歩夢と行くって?ああ、どうだっけな?足痛くてやめたって言ってたか…」 「足?」 「試験の頃だろ?バスケやってて、引っ掛けられて足痛がってたんだけど、親指ヒビ入ってたの。びっこ引いてたの覚えてない?」 「あ、ん…」 「コンビニ寄ってく?」 「いや、あ、ん、やっぱ寄る」 「この前さ、ポケットでチョコ溶けちゃって大騒ぎ。お子様かっつうの。手で溶けない、焼チョコ、こんなんだな」 航平は、チョコレートの棚の前で選んでいる。 溶けたチョコで手をベタベタにして騒いでる真守が想像出来た。 航平は優しい。そして、真守も。 幼馴染の二人は、きっとお互い空気のような存在。 優しい空気。 俺はなんだろう…。 「航平、俺帰るな」 「あ、うん。じゃ、また、気をつけて」 「ん、おやすみ」 にこっとして手を挙げた航平が、真守に見えた。 炭酸を籠に入れて、のろのろ自転車を走らせる。なんだか力が入らない。
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加