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真守からなんの連絡もないまま数日が過ぎた。口に咥えたチケットは捨てられてしまっただろうか。
また、拒絶の溜息を聞くのが怖くて、電話も出来ずにいた。
月曜日、学校へ自転車を走らせて、真っ直ぐグランドへ行った。
早橋さんの姿が遠くに見えている。
俺はグランドの端を歩いて、ネット越しに早橋さんの手が止まるのを待っていた。
暑い風が吹く。
ティーバッティングというのか、同じ体勢で同じ場所に黙々とボールを上げている。
ボックスが二箱空になった処で、漸くその場から離れた。
首筋に汗が吹き出すのがわかる。
「早橋さんっ」
俺の声に辺りを見渡してから、手を挙げた。一年生が清涼飲料を持って走って来るのを受け取ると、ゆっくり近づいて来た。
待っていたのに、急に、早橋さんに会ってどうするつもりなのだ?と。
多分、気まずい顔をしていたと思う。
にこっとして、少し首を傾げた。
「こんにちは。どうした?勉強?」
「ええ…」
「学習室ってクーラー効いてるんだっけ。いいなぁ。今日、なんかやけに暑い」
「ええ…あの…」
「ああ、ごめん。どうかした?」
汗を拭っているのに、この人は涼し気だ。
真守の何を尋ねようとしているのか、すがるような気持ちに気後れする。
「あの…え、と、真守カットに行ってますか?」
「真守君?ん、先週の初めに来たよ。ん、航平君?と一緒に」
「そう…ですか…」
「僕、初めてカットさせて貰ったんだよね。え?いつもと違ってた?」
「いつもと…いえ、」
「喧嘩でもしたの?」
「いえ…そんなことは…」
「そう。キャッチボールって難しいね。って言ってた。野球の話じゃなくてだと思うけど。ん、なんていうか…大切なものは、ポケットに突っ込んだままにしたら駄目なんだね。大事にしないとさ」
「大切なもの…」
「ほら、真守君って結構繊細だから」
「早橋さん…」
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