デオキシス

17/32
前へ
/32ページ
次へ
真守からなんの連絡もないまま数日が過ぎた。口に咥えたチケットは捨てられてしまっただろうか。 また、拒絶の溜息を聞くのが怖くて、電話も出来ずにいた。 月曜日、学校へ自転車を走らせて、真っ直ぐグランドへ行った。 早橋さんの姿が遠くに見えている。 俺はグランドの端を歩いて、ネット越しに早橋さんの手が止まるのを待っていた。 暑い風が吹く。 ティーバッティングというのか、同じ体勢で同じ場所に黙々とボールを上げている。 ボックスが二箱空になった処で、漸くその場から離れた。 首筋に汗が吹き出すのがわかる。 「早橋さんっ」 俺の声に辺りを見渡してから、手を挙げた。一年生が清涼飲料を持って走って来るのを受け取ると、ゆっくり近づいて来た。 待っていたのに、急に、早橋さんに会ってどうするつもりなのだ?と。 多分、気まずい顔をしていたと思う。 にこっとして、少し首を傾げた。 「こんにちは。どうした?勉強?」 「ええ…」 「学習室ってクーラー効いてるんだっけ。いいなぁ。今日、なんかやけに暑い」 「ええ…あの…」 「ああ、ごめん。どうかした?」 汗を拭っているのに、この人は涼し気だ。 真守の何を尋ねようとしているのか、すがるような気持ちに気後れする。 「あの…え、と、真守カットに行ってますか?」 「真守君?ん、先週の初めに来たよ。ん、航平君?と一緒に」 「そう…ですか…」 「僕、初めてカットさせて貰ったんだよね。え?いつもと違ってた?」 「いつもと…いえ、」 「喧嘩でもしたの?」 「いえ…そんなことは…」 「そう。キャッチボールって難しいね。って言ってた。野球の話じゃなくてだと思うけど。ん、なんていうか…大切なものは、ポケットに突っ込んだままにしたら駄目なんだね。大事にしないとさ」 「大切なもの…」 「ほら、真守君って結構繊細だから」 「早橋さん…」
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加