デオキシス

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前髪をほんの少し自分で切った。 昨日は、夏期講習が休みで、学校の図書室へ出掛けたのだった。 野球部の練習に来ていた早橋さんに声を掛けられた。 「高樹君?やぁ。髪、伸びたねぇ。勉強に来てるの?」 「はい」 「そう。ああ、偶には真守君に声掛けてあげて」 「は?それ、どういう…」 「いや、勉強の合間にさ。待ってるかもしれないし」 「そんな…勝手に待たれても…」 「勝手に…か。じゃ、待たなくてもいいよって言ってあげて。じゃぁ、また。勉強頑張ってね」 「はぁ…失礼します」 待たなくていい?なんだそれ? 髪…早橋さんの勤める美容室へ真守と行ったのはGW前か…大会前に行ったきりだ。 真守は、二カ月に一度くらいカットに行ってるらしいけど…。この前一緒に行ったのが三度目。 早橋さんは五つ年上の卒業生。一年前くらいから野球部の練習を手伝いに来ていて、時々校内ですれ違う。 初めて会った時、なんだか自分を見たような、似てる気がしてドキっとした。今はそんな風には思わないけど、間のタイミングが似てるのか、なんか、一寸苦手だ。 真守…。 そういえば、夏休みに入ってから顔を合わせていなかった。 というか、休みに入る前からだ。 部活は、GWにあっけなく終わった。 俺は、後半終了15分前に交代し、ボールに触れることもなく、試合終了のホイッスルを聞いた。 運動部で三年生の引退が一番遅いのは陸上部の12月。それに比べれば半年も早い。サッカー部にがむしゃらになっていた訳ではないし、俺は大学進学希望で、普通校に比べたら圧倒的に少ないだろう学習時間を考えれば、半年でも全然足りない。春休みから塾に通い始めていたが、この処なんとなくギアが上がらなかった。 なんとなく…。
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