デオキシス

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スマホが戻って来ても、特に誰からメールが届く訳でもなかった。 リビングではテレビが掛かっていて、祖父が観るともなしに観ているようだった。 「歩夢、今日は早いな」 「ん」 アニメ史上空前の大ヒット。ヒットの理由を探る。監督インタビュー。 音声に足が止まる。真守に観に行こうと言った映画。 「ねぇ、7月17日って、何かあったっけ?」 「7月?ん、母さん、7月17日は何の日だ?海の日か?」 「じゃなくて、何かあったかなと思って」 「何か?」 「なぁに?7月?ああ、嫌だ。引ったくりに合った日じゃない」 「あ、そうか、そんな前だったか?」 「そうよぉ。なぁに?その日がどうかしたの?」 「ううん、なんでもないよ。ありがと」 「もうすぐ夕食にするわよ」 「はい」 そうだった。祖母が銀行で金を下ろして、外に出た途端、呼び止められて引ったくられそうになった。本人も腕を擦りむいたくらいで、バッグも無事だったが、病院やら警察やら、なんだかバタバタした日だった。 約束をすっぽかした理由にはならないけど…。 掛かって来ないなら俺が掛ければいいんだ。今更なんて言おうか…。
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