彼の記憶

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彼の記憶

 彼は僕の大学のサークルに所属しているメンバーの中では、外部から参加している唯一のメンバーだった。  というのも、そのサークルは別に何かで表彰をされているわけでも、熱心に活動をしているわけでも、活動は魅力的なわけでも無かったからだ。  外部から参加する方が、よほどどうかしている。  そしてサークル内の人間のほとんどは、彼に注意を払わなかった。仲間うちだけで楽しくやれているのだから、わざわざ得体の知れない人物に声をかける物好きなんていない。  だから彼はいつも部室の隅の方で、パイプ椅子に座って黙々と文庫本を読んでいた。彼を無視するのは、そのサークルでの暗黙の了解だった。  でもサークルに入ったばかりの僕がそんな事情を知る由もなく、つい「居ないはずの人間」に声をかけてしまったのだった。
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