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何か言おうと思ったところでゆっくりとポケットに手を突っ込んで、取り出した物を無造作にこちらの手に置いた。
体温で温まっていた金属は、鍵だった。
掌と、相変わらず何も言わずに不機嫌にすら見える顔の間で視線を往復させて、ようやく沈黙の意味が分かった。
そうか、ユウヤさん緊張してたんだ。
それが分かった瞬間気が緩ん力が抜けた。自分がどんな顔したのかよく分からない。
多分相当間抜けな笑顔で、半分泣きかけだったと思う。
まだ混乱してたけど嬉しかったのは確かだ。
でもそういう事は、当たり前だけど、言葉にしないと伝わらなかった。
何も言わない僕を見てユウヤさんは大きく息を吸い、膝に手をついて身体を二つ折りにしながらため息をついた。
「はぁー、…ねぇ、何か喋って?実はいらなかった?」
俯いたままの頭にそっと手を乗せた。いつも嫌な顔もせずに触らせてくれる柔らかい髪の毛の感触が、好きだ。
「そんなわけないでしょ?びっくりして言葉が出なかっただけ」
僕の言葉にユウヤさんがゆっくりと顔を上げた。半泣きの笑い顔、初めて見た。
「これでもう玄関開けっぱなしにしなくても大丈夫になった。ユウヤさん、不用心すぎ」
「あ、タメ口だ」
噛みあわない会話の後、どちらからともなく笑い出していた。
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